な ご み の 童  話


ひとみちゃんのなみだ



No9




やがて山に夕日は落ちて
ゆうやけの光が、ひとみちゃんをつつみこむ

最後のなみだひとつぶが
ほほを落ちていく

ひとみちゃんは
そっとなめてみた

お母さんと食べたおにぎりの味
しよっぱい味

おいしさの味
お父さんの味

あたたかい、お父さんにおんぶしてもらったこと
手をつないでもらった、さんぽ道

もうあえることのない、お父さん

さようなら

ゆうやけがひとみちゃんの
ほほをてらして、ほほえみかける

元気だしてね

なみだ色した
ひとみちゃんの目には
いつまでも
お父さんの思い出が、かがやいていた。





No8

おとうさあん
ひとみちゃんは泣きながら
さけんでいた

ながれる雲も
青い空も
みんな、みんな
泣いているように
時計が止まったように

風だけが
吹いていた

ざらざらとした
おとうさんのひげをさわったこと
だっこしてもらったこと
いろんなことが思い出されて
ひとみちゃんは
大きな木に顔をつけて
いつまでも、いつまでも
泣いていた

2003.12.16


No7

ゆうびんやさんが
なにやら、おばあちゃんに
けいれいして手紙をわたしていた

おばあちゃんの顔は
紙のように白くなり
よろめいた

おじいちゃんを呼んで
仏間に入り
中から
泣き声が聞こえてきた

ひとみちゃんは思った

お父さんが死んだのかもしれない

そっと、ふすまを開けてみた

おばあちゃんは
泣きながら、
ひとみのおとうさんがね

死んだのだよ

そういった

ひとみちゃんは
たまらずに
外へ走り出した。

2003.12.9



No6

ひとみちゃんや
これおたべ

おばあちゃんが
真っ赤にうれたトマトをくれました。

うん
ありがと
でも
おかあさんへ食べさせたいから
持っていたらダメ?

いいから
おたべ
おかあさんの分はあるからね

うん
おばあちゃん、ありがと!

せんそうは、ますますはげしくなり
夜になると
ひとみちゃんの住んでいる、いなかを
通りこして
大きな市内へばくだんを落としていました。

夜なのに
真っ赤に燃えるほのおは
真昼のように
空をこがしていました。

げんかんのほうで
郵便屋さんの
自転車の止まる音がしました。

2003.12.6



No5

きょうは
ひとみちゃんのおかあさんが
にゅういんする日です

おじいちゃんと、おばあちゃんが
ひとみちゃんを、むかえにきてくれました。

ひとみちゃんは
もうないていませんでした

下をむいてじっと
なくことをこらえていました。

ひとみちゃん
おじいちゃんたちのいうことをよくきいてね

おかあさんがいいました

ひとみちゃんは
うんと
小さくうなづきました。

せんそうによって
小さなひとみちゃんは
はなればなれになって、くらすということを
しなければならいのでした

2003.11.29



No5

つぎの日
ひとみちゃんのおかあさんは
やはり、病院へ行くことになりました。

そして
にゅういんをすすめられました

小さい子がいますのでと
おかあさんがいいました

こまりましたね
どなたかに
あずけて、みてもらうことはできますか

そういわれて
おかあさんは
その日は帰ってきました

おかあさんは
ひとみちゃんにいいました

にゅういんしないといけなくなったの
おばあちゃんの
おうちで
しばらくまっていてほしいの
ひとみちゃん

ええ〜
いやだよぅ
いっしょにいくよ
病院へ

ひとみちゃんはかなしくて
なきだしました。

2003.11.20


No4

ひとみちゃんは
そっとだいじそうに
おいもをたべました

ふわっとおいものあまさが
口にひろがります

もう少したべたいな
そう思いました

それでも、ひとみちゃんは
おかあさんがおきてくれたら
たべるからと
半分のこしました

まどのそばで
小鳥が
チュン、チュンとなきました

おいものしっぽでもいい?
かわいいね

5月の風が
ふきぬけました

せんそうがおわるまで
まだ3ヶ月ありました

おとうさんが
南の島で
なくなったことは

まだだれもしりませんでした。

2003.11.16



No3

ある日、ひとみちゃんの
おかあさんが
朝おきてきませんでした

ひとみちゃんは
しんぱいそうに
おかあさんの顔をのぞきこみました

おかあさん
となりのおばちゃん
よんでくるね

あっ いいの
おかあさん
がまんしてねているからいいわ
きょう、ねていたら
げんきになれるとおもうから

ごめんね
ひとみちゃん

ううん
はやく元気になってね

戸だなにね
きのう、ふかしたおいもがあるから
たべてね

うん
おかあさんは?

ううん
おかあさんは
ほしくないからいいの...

じゃ
のこしておくからあとでたべてね

いいのよ
みんなたべなさいね

2003.11.12



No2

「ひとみちゃん、はい おひるよ」

「うん!わ-い おにぎりだね」

「そうなの これからはね おこめがなかなか手にはいらなくなるから..」

「ゆっくりたべようね」

「はあい」

ひとみちゃんがおいしそうにたべることを
おかあさんはうれしそうに
見ていました

東京で大きなくうしゅうがあり
ひとみちゃんのおかあさんの家族は
もうなくなっていました。

ここはおとうさんの実家ちかくの
小さないなか町

おかあさんは
ないしょくの洋服をぬったり
人にたのまれて
畑をてつだったりしていました

おかあさんは
いつもコンコンとセキをして
もも色の顔をしていました

まだふたりは
結核にかかっていることが
わからなかったのです。

2003.11.9



No1

「ばんざい!」
「ばんざい!」

えきで声があがりました

「ひとみをたのむ」

「はい..」
「きをつけてください」

「いってくる」

おおぜいの、へいたいさんたちは
おおくの人にみおくられて
せんちへと行きました。

ひとみちゃんは8さいです

おかあさんとふたりくらしになりました。

ひとみちゃんにとって
せんそうへ行くということも
わからずに
いつまでも
見えなくなった、れっしゃの方へむいて
日の丸のはたをふっていました。

おかあさんが
コンコンとせきをしました。

まもなくさくらがさこうとするころでした

ちいさなつぼみが
まだつめたい風にゆれていました。

2003.11.6