Short Story

第1集(2002.6.14〜2002.7.31)
第2集、第3集(2002.8.1〜2002.9.30)
第 4集  (2002.10.2〜2002.10.31)
第5集 (2002.11.1〜2002.11.30)
第6集 (2002.12.1〜2002.12.16)
第7集 (2003.3.1 〜 2003.3.13)
第8集 (2003.3.18 〜 2003.7.4)
 第9集 (2003.7.20 〜 2003.9.13)

第10集 第11集 第12集 第13集 第14集

第15集
 


No250





春の芽吹きが見える頃になると
列車の音が聞こえて来る

「さっちゃん、明日は大阪だね」

「うん。。」

大阪の紡績工場へ
たくさんの友達が、就職して行った。

駅での見送りも
最初は、にこにこしていた友も
出発ベルが鳴り始めると
みるみる瞳に涙が溢れていた。

春の風はまだ冷たくて
まだ幼さの残る友の顔をなぜていく

さっちゃん
いまでも、大阪でしょうか。。。。

2005.3.6



No249

スミレ




「おめえが、嫁さ いぐ時にゃ
べべのこ、一匹つげてやるからな」

「いつも、すまね-なぁ
おめぇさばがりに畑ぇさせてしまってよぉ」

「おどさぁ なあんも気せんでけれ」

そう言うと千代は黙々と
畑を耕し始めた

ほんのわずかな葉タバコと
お米を作るだけの生活は苦しい

千代は学校で借りてきた
本を読むことが好きだった

けれども
畑が忙しくなると
学校は休みがちだった。

約束してくれた父は、千代がまだお嫁に行く前に亡くなっていた。

あれから
半世紀が過ぎて
千代はひとりになった

ひとり暮らしの中で
寂しさはあるけれど
好きな本をいつでも読めるように
手元に置いてある

畑の隅にはあの頃と同じように
野に咲くスミレが咲いていた。

2005.3.5



No248





「ばんざい!!!」
「ばんざい!!!」

梅の花香る頃、多くの町民に送られて
和男は出征して行った。

「母さん、俺 本当は行きたくないんだ。。」

「うんうん。。」

和男の肩をやさしくなぜた

小さい頃から病弱で
やっとの思いで大きくした子だった。

いくつもの別れがあって
母は慟哭の涙を流しました。

慈しみ育てた子を捧げる
哀しみの果てに思うこと

それは
代われるものならば
幾度そう思ったことでしょうか・・・

2005.2.27



No247

チュ−リップ




チュ−リップの芽が出て
花が咲く頃になると思い出す
小学校に入学して
初めて描いた絵がチュ-リップだったこと





画用紙いっぱいに、たくさん描いて
花丸もらったこと
あの頃の私は小さくて
赤いランドセルが大きく見えて
母の手縫いの服ばかり
チュ-リップは、土の中でそっと春を待つ
黙って待つ

2005.2.25



No247

桜草




「私ね、桜草が大好きなの
春一番にね、どんなに寒くても咲いてくれるでしょ
元気がもらえる気がするの」

病院のベットで、友はつぶやいた。

「そうね、可愛い花ね 小花がいっぱいに付いてね」

「私ね、子供が授からなかったから
小さな花がいっぱいに、こぼれんばかりに咲いている花が好きなの」

「うんうん。。」

「桜草の咲く頃には、元気になってね
また、来ますね」

「ありがとう」

もうすぐ、桜草が咲き始める
元気になって欲しい
そう願いながら
沙紀は病院を後にした。

2005.2.24




No246






桜の花が咲く頃になると
由美は裏山の桜を
一日眺めている

「由美ちゃん、俺と一緒に行こう」

「きっと幸せにするよ」

「うん・・・・」

「お母さんをひとり置いていけないわ」

「じゃ 俺、きっと待っているから
決心が着いたら来てくれ」

「うん」

あれから
いくつもの桜が咲いたけれど
由美はずっと、ここにいた・・・

夜汽車に揺られて
彼のもとに着いた時

交通事故で亡くなったことを聞いたのでした。

この桜の木の下にいると
あの頃のふたりが微笑んでいる

毎年、桜は
ふたりの思い出を包み込んで
美しく咲いている

2005.2.21




No245

菜の花




菜の花色は希望の色

どんなに寒くてもまた春が来たね

舞の母がつぶやいた

いっぱいの春があったよね
入学式が嬉しくて
母さんも元気よく歩いて行ったよね

磯で海苔も採ったよね

春って、やはり芽吹きの時だから

新しい命が可愛いね

みんな繰り返されていくね

生きていることは
自分のためだけじゃないんだよ

皆、生かされて
周りの人に見守られて
励まされて

だから
生きていけるんだね

2005.2.10



No244

梅の花




沙紀ちゃん
本当に引越しするの?

うん
お父さんが転勤だって。。

そう
もう会えないね

うん
東京は遠いよね

手紙頂戴ね

うん
書くね

春はまだ浅くて寒い日だったけれど
舞にとっては
仲良しの沙紀ちゃんが
遠いところへ引越しして行った頃のことが
思い出されて来る

少しの間の文通だった

中学生になるといつしか
疎遠になっていた

えくぼの可愛かった
沙紀ちゃんのことは
いつまで経っても
あの頃ままの顔が心に残っている

2005.2.4




No243

梅の花




あれっ
どこへ行くのかな
いつも家族の人と一緒だけれど
ひとりでお散歩かな

お散歩ですか?
舞は声をかけてみた

ええ
梅の花がみたくてね
おじいさんと、見に行こうと思ってね

あそこの公園に咲いていましたよ
一緒に行きましょう

はいはい

春はまだ浅く
ほんの一輪しか咲いていないけれど
見つけると
ほっとしたように
微笑んだのでした。

帰りましょうねぇ
一緒に家まで行きますね

おじいちゃんが亡くなってからもう長い
元気だった、おばあちゃんも
ずいぶん腰が曲がってしまっていた。

一緒に見たいと思う気持ちが
ここまで歩いて来たのかもしれない

舞はそっと、そう思った。

2005.2.3




No242

雪の朝



画像撮影 ひろっぺさん


ケンちゃん、夏休みには帰ってきてね

当たり前だろ-

うん。。

こら!
由紀っぺ、泣くなよ

うん。。。。

小さな駅でのお別れ
ケンは都会の大学へ
由紀子は、地元の小さな銀行へ就職が決まっていた。

楽しかった高校生活が雪に溶けて行く
春はまだ遠い、雪国の別れ
新しき旅立ち

幼馴染のふたりにとって
遠い距離が
どんなものになるのか不安な朝

ケンが由紀子の手を持って
ぎゅと握っていた。

2005.1.29



No241

卵焼き

舞の通っていた小学校では
とうとう卒業するまで、給食がなかった。
毎日、母の作ってくれる、お弁当が
なによりの楽しみだった。

海に囲まれた、小さな港町だったので
お父さんが、漁師だという友達が多かった。

海が荒れると何日も
魚が獲れない
お弁当に、おかずがちよっぴり。。
そんな日は、たくさんありました。

舞の母は
庭で鶏をたくさん飼っていたので
いつも卵焼きがお弁当には入っていました。

ゆきちゃん
よかったら食べてね

うん
貰っていいの?

いいよ
食べてね

ありがと、美味しいね

あの頃は小さな卵焼きが
最高に美味しいおかずでした・・・

2005.1.15