さ く ら 花

since 2006.4.1


No15





母さん
さっちゃんとの結婚を許してくれないか

高志は、母に思い切って話した

さっちゃん
身重なんですってね
どんなにか苦しんだでしょうね

今は、自分の子供でさえ
育てるのは大変な時だわ

高志には、この決断は
よくよくのことと、母さんも思うわ

高志の母は
深いため息をついた

母さんの気持ちは

高志の思うようにしなさい
見守っています

ありがと、母さん

さっちゃんの気持ち、ひとつだわね
難しいと思うわよ
頑張ってね

うん!!


2006.7.26








No14


帰り道、佐知子の庭に咲いている桜が
満開だった

あの木の下で
よく遊んだな

土手を歩くと
かすかに春風が吹いた

生まれる子供に
父がいない

佐知子はどんなに心を痛めているだろうか

たんぽぽの黄色が
高志の目にぼやけた。。

早くから父のいなかった高志にとって
心、苦しいほどの現実だった

もう少し、休暇はある

何度でも逢いに行ってみよう

高志は、そう決心していた


2006.7.24



No13

ごめんください
高志の声がした

さっちゃん、相変わらず、かくれんぼですか

そうだな
その通りだ

はい、さっちゃんの好物

桜の時期にも
スイカがあるのかい

今は、一年中ありますよ

有難い、何か食べてもらわないとな

食べてないんですか

ツワリのせいもある

高志は、声を失った

あがってくれないか

話したいことがある

はい

佐知子の父は
高志が海外勤務になってからの
いろいろなことを、話した。

佐知子は婚約していたこと、相手が事故で亡くなったこと

身篭っていること

高志は、小さなため息をひとつした

2006.7.22




No12

今日は会わずに帰ります

高志はそういうと、玄関へ向かった

それでも、ふと思い出したように

佐知子の部屋へ向かって

お-い
さちっぺ
また来るぞぅぅ

そして、帰って行った

佐知子は、懐かしい声に心が震えていた

声を押し殺して泣いていた

なにもかもが遠い日に
戻ったような錯覚を覚えていた


夕食の後で
佐知子の父は
ポツリと言った

いい青年になったな
高志君

佐知子は
聞こえないふりをして部屋へ急いだ

2006.7.20



No11


******
いつしか季節は流れて

ふたりは、違う高校に入り
佐知子は地元の大学へ
高志は、関西の大学へと、ふるさとを離れていた

少しづつ、ふたりの距離は遠くなっていた。

やがて、お勤めをするようになった佐知子

海外勤務となって、シカゴに住む高志

それでも高志の心の中には
いつも佐知子がいた

幼い日に焼きついた
佐知子の面影を忘れることはなかった

あと一年で海外勤務も終わる

帰ったら
さっちゃんに、結婚を申し込もう
そう思っていた。

佐知子は、海外へ行ってしまった
高志のことが気にはなってはいたが

同じ課の同僚、雄介と愛し合うようになっていた

父も公認で
二人は婚約していた

佐知子にとって
あの日が来るまでは
幸せの日々だった

勤務途中の列車事故
まさかの事故
雄介は即死だった。。

会社を辞めて自宅に篭った佐知子は
涙の日々を過ごしていた

お腹には、雄介の子供が育っていた


その頃、祖母の法事の為
高志が帰国してきた

挨拶に出た、佐知子の父は
曇った顔をしながらも
元気よく、精悍な顔立ちとなった高志を
迎えていた

いろいろな話から

佐知子のことになると

話は、とぎれた

佐知子は高志に会おうとしなかった

2006.7.19






No10


「たかちゃん、もうすぐ七夕さまだよね」

「うん」

「たかちゃんは、願いごと、何かくの?」

「まだ決めてないよ」

「さっちゃんは、なんて書く?」

「たかちゃんのおよめさんになりたい」

そう書こうかなぁ

そう聞くと
高志は顔を赤くしながらも
嬉しそうに笑っていた

小さいふたりの楽しいひととき
思い出の時

佐知子は大きくなってからも
この時のことを忘れることがなかった。


2006.7.2


No9


佐知子の足には
大きくなってもわかるほどの傷がある

高志と一緒にいたときのこと

暴走してきた自転車にぶつかって
転んで出来た傷だった

その時の高志の怒った様子を佐知子は
大きくなっても
いつまでも覚えていた

普段はおとなしい高志は
自転車に乗っていた高校生に
くってかかった

佐知子がたじろくほどだった

大きくなっても残るかもね
この傷

そういうと

高志は

いいさ
それくらいの傷

たいしたことないよ

そう言ってなぐさめてくれた

2006.6.1





No8


たかちゃんは、絵を描くのが上手いね

さちね
描いてもらいたいものがあるの

何の絵?


うん
薔薇の絵

ママね
薔薇が好きだったって
パパが言ってた・・

うん
いいよ
下手でもよかったら描くよ

たかちゃんに描いてもらったって
ママに見せるね

さっちゃんも一緒に描こう!


うん!

公園に薔薇が咲いていたね
見に行こうか

うん!!

2006.5.23






No7


たかちゃん〜

なんだい

うん、もうすぐ母の日だね
さち、嫌いだ、あの日、、

うん
そうだな

僕も父の日が嫌いだ

うん

幼稚園で、作ったもの
たかちゃんのお母さん
貰ってくれるかしらね

大喜びするさ
きっと

うん!!!

ふたりには、父がいない 母がいない

寄り添うような気持ちが
幼い頃から芽生えていた

桜は、新緑になり
風に優しくそよいでいた


2006.5.10



No6


さっちゃん〜
今日は、僕と帰ろうよ

隣の席の雄介君だった

う、うん
でも、いつも たかちゃんと帰るから、、

チェ
なんだ、たかちゃん、たかちゃんって!
フン!

佐知子が、いまにも泣きそうな顔をしていると
高志がやって来た

おい!
さっちゃんを泣かしたら承知しないからな

雄介は、高志の剣幕に逃げて行った

もう口きくなよ
いいな

うん!!
たかちゃん

2006.5.3




No5


「さっちゃん、来週の土曜日は私のお誕生日なの
遊びにきてね、お母さんがお昼を作ってくれるって」

仲良しの真里ちゃんから
お誕生日会のお誘いだった。

「うん、」

佐知子の家には、母がいないので
誕生日は、いつも父と外食だった。

誕生日会・・いいなぁ
私も家にお友達を呼びたいなぁ

しょんぽりと帰る道で

高志が言った

「今度の誕生日は、お母さんに頼んであげるよ
美味しいもの作ってって」

「うん!!
ありがとう」

ほおら、土手まで走るぞ〜

「まってぇ たかちゃあん〜」

2006.4.19




No4


二人が遊びに行くのは
いつもの河の土手だった。

夕日が赤く染まる頃になると
高志の母が迎えに来てくれた。

3人で手を繋いで帰ると
親子に見えた

佐知子の父はいつも遅くて
いつも高志の家で夕食も食べて帰った。

兄妹のように育った、ふたりだった。

「たかちゃん、また明日ね」

「うん!」

ふたりの仲の良さに

高志の母と、佐知子の父は微笑んだ。


2006.4.11




No3


さちっぺぇ
行くぞぉ

うん!!
たかちゃん

今日も、あのいじめっ子が来たら
なぐってやる

うん!!

さちっぺをいじめる奴は許さないからな

うん!!

なんだ、うんばかりだな

たかちゃん
だあい好き!!


ばあかぁ

2006.4.7



No2

佐知子と高志は、同じ年

家も近くだった

佐知子の母は、悪性腫瘍で佐知子が幼い頃に亡くなっていた。

高志の父は、交通事故で亡くなっていた。

高志は、父の顔も覚えていない

幼稚園の頃、父の作った遠足のお弁当がいやだと
泣く佐知子に、母がもうひとつ作ってくれたお弁当を
持ってきてくれた高志だった。

佐知子の家のには
桜の木が一本ある

佐知子が生まれた時
母の願いで植えられていた。




No1

☆プロロ−グ ☆

 おおい〜 さちっぺ
 
 今日、あの土手に桜がさいていたぞ
 
 見に行くかい


 うん!!
行くよ たかし ちゃん

 いつになく寒さが続いてはいたが、近くの河の土手沿いに
 桜の花がたくさん植えられていて

 その道を通って、学校に行く、佐知子と高志だった。

 お互いの家は近く、佐知子には母がいなかった。

高志には、父がいなかった。


2006.4.1