Short Story

第1集(2002.6.14〜2002.7.31)
第2集、第3集(2002.8.1〜2002.9.30)
第 4集 (2002.10.2〜2002.10.31)
第5集(2002.11.1〜2002.11.30)

第6集



No135

お盆

綾子は台所を片付けしていて
ふと、使っていない
お盆を見つけていた。

開けてみると
鵜城彫りとなっている

あっ そうだ
ずいぶん前に、高齢者雇用促進のための標語が
募集していたとき
運よく、選ばれて
お礼にもらったものだった。

その時は
図書券だと
嬉しいのにな〜なんて
思ったけど
みれば、なんだか
すばらしいお盆には
違いない

いつか、そういえば
聞いたことがあった
鵜城彫りは高いのよと。

はい、使わせてもらいますね。

そして
綾子は思い出した。

- 長い経験豊富な知識きっと役立つ高齢者 -

2002.12.16





No135

夜汽車

夜遅くに駅を発つ
発車までの時間を
じっと待つ
退屈はしない

あの人のことを想っていればいいのだから

由美子は22歳
東京までは遠い

ひとり旅

待っていてくれるだろうか
私がわかるだろうか

10年が過ぎていた
小学生の面影しか思いつかない

毎日のように届く
手紙の重さ

厚みに驚いて
航空便の便箋にいつしか変わっていた

夜のしじまの中に
灯りが飛ぶ

心がはずむ

東京へのひとり旅

幼馴染に逢う為に
声を聞く為に
気持ちを確かめる為に

夜汽車はひた走る

2002.12.5





No134

シ−ソ−

加奈子が通っていた小学校には
手でぶら下がるシ−ソ−がふたつあった。

いつも人気で、並んで遊んでいた。

朝礼前のひととき
いつものように遊んでいて
体重の軽い加奈子はいつものように
相手から、吊り下げられていた。

それでも負けん気の強い加奈子は
いつまでも意地を張り
ぶら下がっていた。

やがて
朝礼の始まりのチャイムが鳴り

加奈子は突然に
振り下ろされた

あいにく
降りたところは
大きな水たまりがあり

加奈子は
スカ−トとともに
泥まみれになっていた

泣きそうな顔をこらえて
スカ−トを折り曲げ
すました顔して
並んだ朝礼

公園の前を通りながら
加奈子は

幼き自分を思い出していた。

同じクラスの男の子が
じっと加奈子のことを見ていたこと。

そして
その男の子と
結婚することになるなんて
知るはずもなかった...

2002.12.3