Short Story




第1集(2002.6.14〜2002.7.31)
第2集、第3集(2002.8.1〜2002.9.30)
第 4集 (2002.10.2〜2002.10.31)
第5集(2002.11.1〜2002.11.30)
第6集(2002.12.1〜2002.12.16)
第7集(2003.3.1 〜 2003.3.13)
第8集(2003.3.18 〜 2003.7.4)
第9集(2003.7.20 〜 2003.9.13)



第10集
No183

油絵

お母さん
あの油絵まだある?
100号の3枚

あれねぇ
捨てられてしまってねぇ

ええええ
どしてぇ

この家を借家にしていた時ね
倉庫を片付けられてしまって
借家人さんが処分してしまったらしい

なんでまた
倉庫を使っていいなんて言ったのぅ

高校の時に描いた
油絵だった
30号の絵もあったはず

高校文化協会連合会で
特選だったのになぁ
祐美はがっかりしとした声を出していた

秋から描き始めて
お正月が明けると
市内のデパ−トまで、出品の為に運んでいた
100号を運ぶのだから
人に見られて
まだ完全に乾いていないので
包装が出来ず
恥ずかしい思いをしたことを
祐美は懐かしく思い出していた。

2003.12.18



No182

あの子

一度、人に裏切られて
捨てられて
あの家に拾ってもらって
気性の激しいあの子
柴犬ミックス君

ある日
お散歩で
我が家の子たちへ吼えついて
お散歩させていた
女の子が叱ったとたん
腕に噛みついた

それから
まもなくして
連れて行かれたとの話しを聞いた

ハウスだけが取り残されて
木の葉が回りに舞っていた

ごめんね
救ってやれなくて...

あれから
もう何年も過ぎたのに

あの道を通ると

ごめんね...

つぶやいている

2003.12.9



No181

若いふたりのカップルが
子猫を拾いました

ふたりともアパ−と暮らしなので
飼えません

保育器にいれなければ
死んでしまうほどの
大きさでした。

ふたりは思案の末
動物病院の戸をたたきました。

すみません
さっき、この子達を拾いました。
いいえ
授かりました。
ごめんなさい
連れて帰れないのです

御願いです
明日、アルバイトのお給料を
もらえます

明日お届けします
どうか
この子達を見てやってもらえませんか
泣きながら彼女は必死で頼みました。

彼は財布の中身をみんな出して

これだけしか
ありません
御願いします

先生は少し考えて
わかりました
そういいました

その後
なんとか命を繋ぐことができた
子猫は
二匹とも同じ家に貰われて行きました。

あのふたりは
きっと
あたたかい家族の元で
育まれてきたのだと確信しました。

2003.11.18



No180

E君

県立高校に落ちてしまった..

がっくりした声で、かかってきた電話

すべり止め、どこも受けてなくて
定時制高校へ行ってます

友からの電話に
声も出せませんでした

あれから
いくつもの年月が流れて

僕達、結婚しました。
届いたハガキ

あれから頑張って卒業して
職業訓練校で
整備士の資格を取り
勤めた会社で、ナナハンの免許を取り

懸命に働いて
実らせた恋

微笑んでいるふたり
お式も旅行もない
あるとすれば
ふたりの絆

お祝いのメッセ−ジをいっぱいに
詰めて
心ばかりの気持ち
届けました。

2003.11.14



No179

のんちゃん

のんちゃん
シ−ズ−です

けれども外で毎日繋がれて
毛はもつれ、目さえも見えません
あまりのひどさでした..

飼い主は、たくさんの犬を飼っていて
手がまわらない様子でした。

友は声かけしました。
私にこの子を譲ってくれませんか..

あまりに可哀想で...と..

案の定、飼い主の怒りをかいました..

れけども友は毎日通いました。

のんちゃんを救いたくて..

毎日、毎日
御願いをしました。

なんとか
御願いできませんかと..
泣きながら..

とうとう
飼い主が根負けしました..

連れて行ってくれ
もういい! と..

出会いの不思議さ
命あるものの
切なさと、可愛さ

友のしたことは
許されることではないかもしれない

けれども

のんちゃんにとっては
天使に見えたのかもしれません...

友はその後
ガンの手術を受けました

のんちゃんが待っている
その頑張りは

のんちゃんからの
励ましと癒しのこころでした..

2003.11.10



No178

キヤンプ

中学1年の時
夏休みに1泊のキャンプがあったことを
舞は思い出していた

450人ほどの生徒なのに
参加者は10人ほどだった。
海辺の近くの小学校へ泊めてもらうという
簡単なキャンプだった。

浜辺で炊いたご飯
飯盒で炊いたごはんの蓋を開ける時

まだ熱い蒸気が
キヨちゃんの顔にかかった
熱くて泣き出すキヨちゃん

先生も慌てて
近くの家から
貰ってきたもの

それはアロエだった

たいしたはなかったけれど
キヨちゃんが頬にあてていた

アロエを懐かしく思い出す

2003.11.2



No177

風船

舞の母は社宅から少し離れたところにも
たくさんの畑を作っていた。

ある日
舞がまだ小学生、低学年の頃だった。

風船につけられた手紙を持って帰った。

木にぶら下がっていたよ

なんか手紙がついているね

みると県南のはるか田舎の小学校から
飛ばされていた。
女の子の手紙がついていた。

これを拾った人は
お手紙を下さいね

舞は、たどたどしい字でかいたことを
思い出した。

あの頃はまだこんな
夢のような
楽しいことが
いっぱいあったような

こんなささやかなことが
胸はずんだと

ふっと今でも
舞は思い出す

2003.10.28



No176

つらら

舞ちゃん
中庭につららを、取りに行こうよぅ

うん
行くよ

あっ!
あのつららが大きいね

うん
待ってよ
取るから

うん

わぁ〜
冷たいぃぃぃ

うん
冷たいねぇ

病院の中庭の軒に下がった、つららだった
舞は父が入院していた為に
いつも母に連れられて
病院へいた。
もう一年ほどになろうとしていた。

幸一は、バイクに自転車ごと
跳ね飛ばされて
足を悪くしていた

それでも松葉杖がやっと取れていた。
当時ふたりは8歳だった。

*******
それから16年後に聞いてみた

あのつらら
覚えている?

よく覚えているよ
夫の幸一が言った。

2003.10.15



No175

運動会

舞は、かけっこが得意だった
負けん気が強いので
いつも一番に飛び出していた
三つ違いの姉は
どうぞ、お先にのタイプだった

お昼に母の元へ戻り
一等の黄色いリボンを
いつも誇らしげにみせていた。

ある時
地区リレ−に出た時にもらった
二等の紅いリボンを
姉にあげた

はにかんだような
姉の笑顔

いまでも
舞は覚えている

運動会が来ると思い出す

リボンだった。

2003.10.9



No174

空港への道

さっきから徹の運転のスピ−トが落ちていた。

空港までの道のり

あと少しで、恵は帰っていく

離したくない
そんな気持ちが徹の心の中で大きくなっていた。

ふたりの間には
700キロの距離があった。

恵は、今にも泣き出しそうな瞳をして
さっきから寡黙になりつつあった。

「飛行機、最終便のにできないかな..」
「恵、もう離したくない」
「こんなところでごめん」
「結婚してくれないか..」

ふいに
恵の瞳から
涙がぽろぽろと
流れて落ちていた。

母ひとり残すことのつらさと
徹への愛と

あとから、あとから
涙は恵の頬をぬらしていた。

2003.10.6



No173

秋桜の咲く道

恵はもう数えきれないほどの
メ−ルを徹に出していた

*********
零れ落ちる涙の訳を拾ってみた

今 このひととき
この一瞬
二度と戻れはしない
この時

時の流れは
止めることはできない

貴方に逢いたい涙
切なさの涙

想ってみるだけ

つぶやいてみるだけ

逢いたいね....

*******
次の日
恵は飛行機に乗っていた。
彼の住む街まで2時間
目をそっと閉じる

空港へ続く道には
色とりどりの秋桜が咲き乱れていた。

2003.10.4



No172
名前

ある人が
しずかという名前の女の人と
お付き合いをしていました。

ふたりはデ−トをしては
笑っていました。

私たち
結婚したら
きっと
可笑しいよね

そうだねぇ
きっと
えっ!!って思うね

うん
そうね

いつしか時は流れて
ふたりは
なぜか
結ばれることはありませんでした。

その男の人は
懐かしく思い出すそうです

男の人の苗字は、静でした。
つまり

静しずか だったのです

静静 です

2003.9.26



No171
工作

長い夏休みが終わって
夏休みの工作を提出すると
広い講堂で作品展が開かれる

教室内で飾られて
その中で優秀なものだけ
展示されていた。
全校生徒が多い為だった

舞は放課後見て歩いて
ふと、目を止めた

下敷きで作った
扇風機
スイッチを入れると、クルクル回る

うまくできている〜
そんなことを思いながら
名前を見る

隣のクラスの男の子

ふぅ〜ん
あの人なんだ
器用なんだな

もう少し歩くと
とうもろこしの髭で髪の毛を作った
舞の人形があった

舞はまだ知ることはなかった

扇風機を作った、男の子が伴侶になることを。

2003.9.21



ポンポン菓子

No170

チリン、チリン
公園にポンポン菓子を作ってくれるおじさんが
やってた来た音だった

母にねだってみる
舞も持っていって
ポンポン菓子を作ってもらいたいと。

母が必ず出してくれるもの
それは畑で採れた
とうもろこしを粒にしたものだった。

友達はみんなお米を持って来る
何よりも、作ってくれる
おじさんが、いやな顔をすることが
舞はキライだった。

とうもろこしは、
機械の中に入れて
くるくると火の上で回している時間が長い
いっぱい並んで待つ、お米が
夕暮れまでに間に合うだろうか
そんな思いが
いやな顔に繋がる

お米を持っていきたかったな

いまでも舞はふっと思い出す..

2003.9.19