Short Story

第1集(2002.6.14〜2002.7.31)
第2集、第3集(2002.8.1〜2002.9.30)
第 4集  (2002.10.2〜2002.10.31)
第5集 (2002.11.1〜2002.11.30)
第6集 (2002.12.1〜2002.12.16)
第7集 (2003.3.1 〜 2003.3.13)
第8集 (2003.3.18 〜 2003.7.4)
 第9集 (2003.7.20 〜 2003.9.13)

第10集



第11集
No193

反抗期

母の話しによると
舞は、早くからオムツが取れたので
父が用事で出かける時には
必ず連れて行ってもらっていた。
汽車に乗ると、靴をぬがしてくれて
舞の触る手すりは、必ず拭いてくれた。

おやつを食べる訳でもないけれど
窓の外に飛ぶ景色が楽しみで
汽車に乗ることが
とても楽しみな舞だった。

おとなしくて素直だった舞を
末っ子だったというこもあり
父は寝る時もいつも、舞と一緒だった。

やがて
舞にもおきまりの反抗期がやってきて
いつしか父をうとましく思っていた。

言葉にならない苛立ち
誰でもが通る道だけど

今更に思う

あの時の父の気持ちが
どんなに寂しく、つらいものだったものかと
しんみりと思う、舞だった。

2004.2.2



No192

電話

母さん
私を産んでくれて、ありがとう〜

舞が誕生日に、母へ電話をするようになったのは
子供を産んでからだった。

電話があると思っていたよ
あの日は暑くてね〜

毎年同じ台詞の母だけど
その言葉が聴きたくて
電話をしている舞だった。

翌年はね
天皇陛下が会社に来られてね

旗を持って行ったんだよ
舞ちゃんを抱いてね

うんうん

その言葉もいつもと同じだけど
初めて聴くようにして聴く

ずっと、ずっと聴きたい
舞だから..

2004.2.1



No191

四葉のクロ−バ−

あのさ
この前さ
四葉のクロ−バ−、みつけたんだぁ
君にあげたくてさ
しおりにして送るよ

いいことあるさ
きっとさ

もう泣くなよ
笑顔が一番に決まってる

近くにいてやれない
傍にいてやれない

それでも気持ちはいつも一緒さ

ずっと一緒さ、もう
卒業したら、離しはしないさ

あのさ
授業さぼってさ
夢中で見つけたよ
ははははははっ

*******
ひだまりの中で
あの時の四葉のクロ−バ−が笑っている、光っている

2004.1.28



No190



真夏の昼下がり
舞はあきもせず、蟻を眺めていた。
小さな菓子くずに寄って、どこかへ運んでいく

その動きがおもしろくて
目が離せないでいた。
やがて舞は
そして、小さなビンに土を入れて
蟻を捕まえては入れていった。

何をしているの?
母の声に慌てて見せて

蟻さんの掘った家がみたい

そんな小さな家だったら
ダメなのよ
死んでしまうから逃がしてあげてね

そう?

うん..

小さなものたちだって生きている
その頃から、舞にとって
動いているものは
生きているんだ
そう覚えたように感じている

2004.1.25



No189

忘れ物

父さん、たった二回だけ
学校に来てくれたことがありましたね

1度目は小学2年生の時
私が忘れ物をしたのでした。
ピンクのコップを届けてくれました。
何に使ったのは、よく覚えてないのですが
きっと、歯磨きの練習だったのかもしれません。
そんなふうに覚えています。
こっそり届けてくれましたね。
交代勤務の父さんが、たまたま家にいたようでした。

そして、小学5年生の時
にわか雨が降ったのです。
廊下に来てくれた父さんの顔が
窓ガラスが、破れていたところから見えました。
私は恥ずかしさで赤くなりながら、受け取りました。
父さんが首をすくめて
覗いたあの顔
忘れることはありません。

あの頃はのんびりしたもので
学校は門もなく、自由に誰でも入れました。

若い、若い父さんがいました。
私は末っ子で
どんなにたくさん可愛がってもらったか、よく覚えています。

父さん
書いていて、ふいに涙溢れました。
不器用で自分に正直過ぎて
感情を隠すことがヘタで..

それでも私の父さんはひとり
私は父さんの子供

また涙溢れます...

ありがとうね
学校まで持って来てくれて..

2004.1.24



No188

春の日

わぁ
おばさん、髪を綺麗にしてもらったのね

そうだよぅ
綺麗になって帰ってきたよぅ

田圃のあぜ道を、伯母は元気よく帰ってきた。

髪を染めてもらい
パ−マをあてて
得意げなおしゃれな伯母でした。

次の日
伯母の家から
かかってきた電話

亡くなったのだよ

そんなこと..
昨日、あんなに元気でしたよ

朝、いつまでも起きてこなくて
冷たくなっていたんだよ

伯父の声は震えていた

命、儚くて、人はみんな
与えられし命
まっとうしていく

爽やかな風吹く
春の日のことでした。

2004.1.22



No187

お便り

浩様
お変わりございませんでしょうか。
今日は大寒
寒さが一層強く感じますね。

それでも庭の梅は固い蕾をつけています。
日差しはなんとなく春めいて見えるのは
気のせいでしょうか

浩さんへ逢いにお伺いしましょうと
思えば、新幹線で2時間の距離ですね。

今年の春
2004年の春
貴方と梅が見たいと思います
桜の花びらの中に立ちたいと思います。

静かに時は流れて
残された日々はとけてゆきます..

穏かな春のような気持ち
そよ風が吹くような

そんな気持ちです
お逢いしたいです

私の気持ち汲んで下さいね

腕を組んだりはいたしませんから
ご安心下さいね..

小さく笑ってくれましたね..

ではまたね

琴乃

2004.1.21



No186

ハナちゃん

この仔猫を貰えますか?

はい、女の子なのですが
いいですか?

ええ、避妊して飼いますから
女の子のほうが優しくていいのです。

失礼ですが
猫を飼ったことは?

あります

何年くらい長生きしました?

10年ですが
猫白血病に掛かってしまって..

そうですか

この子が好きなものですから

小学生の女の子が一緒に来ていた

わかりました
では、可愛がって下さいね

ミイちゃん、お別れなの
ハナちゃん
貰われていくからね

ミャァ〜

最後のお別れ
捨てられていた子たちが、里親に引き取られて
幸に暮らすことは、奇跡に近い

こうして命あるものの
短い命は繋げられて
ひとつのふれあいが終わっていく

いつの日も
ふれあいのあった子達との別れは

嬉しさと涙が両方
溢れている

2004.1.17



No185

子猫

里親捜しのコ−ナ−に
連れてこられた子猫たち

母猫から離されて
小さく鳴いている

3匹は固まって暖をとる

産ませないように避妊してあげてくださいね

話しかけても
曖昧な返事だけ

数時間後
置き去りにされた子たち

ただ鳴くばかり
この子たちに罪はない

籠を抱きしめて
車へと急ぐ

夕日だけが何もかも
見ていたと、真っ赤に燃えている

どんな子だって赤き血は流れている

貴方の心に、赤き命の色を
見せてあげたい

捨てないで...

2004.1.13



No184

さようなら

まいちゃん
こんどねぇ
引っ越すの

えええ
どこにぃ?

うん
おかあさんのところ

さっちゃんひとりだけ?

うん..
さっちゃんはうつむいたまま、顔をあげようとはしなかった。

いつ?

うん
近い内にね..

そうなんだ
さようなら、なんだね

うん

幸子の母が家を出てもう長い。
とうとう、離婚の話し合いがついて
幸子は母の元へと引き取られていくことになっていた。

窓から幸子の祖母の声がした。

出かけるよ

さようなら
まいちゃん
わすれないよ

うん
さっちゃん、元気でね

幸子の母と、とうとう最後まで
判りあえることのなかった、幸子の祖母が
しっかりと、幸子の手をひいていた。

2004.1.7



シロちゃん

団地に住み着いていた、猫のシロちゃん
真っ白だから、いつしかシロちゃんと呼ばれていた。

とてもお愛想がよくて
すりすりと寄ってきた。

やがて子猫を生んで
その子は近くの人が飼ってくれた。

シロちゃんは
人に飼われることを嫌ったから..

ある日
子猫のいる、その人の家の玄関前で
うずくまった。

大量のオシッコを出して...

「おばちゃん..わたしもうダメみたい
あの子を御願いします
いつも、いつもたべものをありがとう..さよなら」

まるで、そう言っているかのように..

小さき命
召された命
同じ生きるものにかわりはないものを。

心なく捨てる人に、この子の最後を見て欲しい

心の痛み知って欲しい..

2004.1.3